自分を知る、楽器を知る(6)  プラス方向に弾く

鍵盤を触ったところから、鍵盤の底までの数センチ。この間にどれだけの重さと速度を落とすかで様々な音がでることは、今まで見てきたとおり。この重さと速度を組み合わせたものをエネルギーとここでは呼んでみる。

原則9) ピアノは、下に向かってエネルギ―を送りこむ、いわゆるプラス方向の作業“のみ”で弾く。

当たり前のように聞こえたかもしれないが、実際は音を弱くしたいとか、軽くしたい、やわらかい音が欲しい、などとなると、下に落ちないように、とブレーキをかけたような打鍵をしてしまうケースが非常に多い。こうなると、ピアノを弾く時の基本である<重さを“落とす”>ことができなくなる。
または、短いスタッカートにしたいとき。熱い鍵盤をさわるかのように、ぴょんぴょん撥ねる打鍵を見ることがある。それは、短くしている気になっている“自己満足”でしかなく、本当のコントロールはきかない。
もう少し楽器のことを考えてみよう。
ピアノは指が鳴らしているのではなく、ハンマーが弦をたたいて鳴らしているのだ。そのことを忘れないでほしい。そのハンマーは下から上にあがる。つまり、どんなに軽い音や、弱い音が欲しくても、私たちは鍵盤に対して、エネルギーを下に“送り込む”、つまりプラスの作業をしない限り、理想通りの音にはならない。
弱く弾く、やわらかく弾くというのは、送り込む量を”減らす“マイナスの作業ではない。そうではなく、逆に”少ない“エネルギーを<送り込む>というプラスの作業なのだ。
もっとはっきりと伝えるために、こういう例をあげてみよう。楽譜に四分音符でド、そのあとに八分音符でソの音(先ほどのドのすぐ上のソだとする)が書いてありその後ろに八分休符があるとする。更にそのドとソにスラーがかかっているとイメージしてほしい。それを右手の人差し指でド、右手の小指でソを弾くとする。
言葉だととってもややこしいが、要するに
ドーソッというレガートだ。ソは短め。
実際弾いてみよう。
人差し指でドを弾く時は、鍵盤の底をつかんでいるが、小指を弾く時に手首をあげて、手を(手の甲を)鍵盤のふたの方へ浮かせた人がいるのではないだろうか。
浮かすことがいけないのではない。その方が感じ易ければ、“音の障害になっていない限り”どんな動きをしてもかまわない。ただ、ドーソッというレガートを作りたいという思いから、手をしゃくりあげたのだとしたら、それはレガートにした“つもり”、いわゆる自己満足にしかならない。
ドの時にエネルギーを多く入れ、少なめのエネルギーでソを弾けば、ソの音の方がドに比べて音に勢いが少なくなるので、ドーソッと聞こえる。ソの時は、エネルギーを減らしたのではなく、少ないエネルギーを下向きに入れただけだ。手をしゃくりあげる必要はない。
原則10) ピアノは、いつでも下へと弾く。上に引っ張り上げるのではない。
でも、次の音を弾くために、鍵盤をあげなければならないのではないか、と思った人もいるだろうか?
私たちに、鍵盤を上げることはできない。指先に吸盤でもついてない限り。笑
鍵盤を上げるのではなくて、戻すことならできる。どういうことかわかるかな?
この続きはまた次回に。
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