いつかCDをリリースするなら、絶対に収録したいと切望していたこのピアノソナタ。なぜか3楽章ばかりが演奏されるが、私は1、2楽章に強く惹かれるし、全楽章を通した時にこそ、この曲の持つ宇宙的神秘、そして強烈なエネルギーが光を放つ曲だと感じる。
1楽章はその見事な構成を理解するのに、相当な時間を要した。大まかな流れを理解して譜読みを進めたはずが、いくら練習してもどうも何かまとまりが悪く、魅力がでない。そんな時、分析の資料が手に入り、読み進めると、もっともっと細かなさまざまな要素が作曲家の手によって練り抜かれ、組み立てられていたことがわかった。糸を手繰り寄せるように、それらの流れについていくと、びっくりするような勢いが生まれた。音楽は作曲家が細部まで練り込んで作り上げている芸術作品なわけで、演奏家という立場をわきまえて作品へアプローチすることの大切さを改めて再認識した。
2楽章はとても不思議な世界だ。Lied(歌曲)とドイツ語で題されたこの楽章は、神秘的な節が聴こえてくるところから始まり、その節がぐるぐると細かな音の渦に巻き込まれていく。もごもごという感じのする世界は、水の中でその節が聴いているような、なんとも言えない不思議な耳の効果があり、私はなぜか、母親のお腹の中で聴いているような感じを受ける。
3楽章。この曲の1番の醍醐味は、徐々に増していくマグマのような猛烈なエネルギーと、縦横無尽に突き破る宇宙的大空間。そしてその中に挟まれた、この世のものとは思えない美しさのコラール。
変奏になっていて、変奏曲を経るごとに、徐々にテンポが増し、エネルギーが蓄積されていくその計算し抜かれた作曲家の技法。第一変奏からかなり速く弾いてしまったり、妙義を見せることを目指すと、この曲の魅力は半減してしまう。内に蓄積される強烈なマグマ的エネルギーをいかに操れるか。本当に苦労した。
3つの楽章全てを通して非現実なこの世界観を表現できた時、おそらくこの曲は最大の輝きを見せてくれるのだろう。
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