特別公演のCDができるまで④ 〜分析は作曲家からの手紙

今回のCD録音に選んだデュティーユのピアノソナタ。以前から惹きつけられていて、いつか全楽章を勉強したいと思っていた作品だ。

実際練習してみると、何かが私の演奏に足りない。こんな演奏では惹きつけられるどころか、聴き手は迷子になってしまう。そんなときDがひとつの分析の書類を見つけてきてくれた。

英語…

翻訳ソフトでは意味不明になってしまったので、亀の歩みで訳し始めた。

すると、不思議な音が並んでいるように見える中に、ほんのちょっとした道標になる音やリズムが入っている。山の中で時折見つけるピンクのリボンのように。

数日かけて少しずつ訳していくうちに、楽譜が急に全く違うものに見え、演奏しながら耳で拾っていく音の世界がガラッと変わった。道筋を照らしてもらっているかのように、演奏が前進していく。

一気に曲の勢い、驚くほど曲の力が増した。

不思議な世界の中に、たった一つの音が今どこにいるか、次どこへ行こうとしているのかを示してくれている。たった一つのリズムが、全体をつないでいる。

分析は大切だよ、なんて言われつつ「宿題」のイメージがあった学生時代。実は道を示し、命を宿す、作曲家からの手紙を紐解いていくようなもの。

作曲家は気持ちに任せて、殴り書きしているわけではない。

「人生の苦悩、絶望が…」そんな安っぽいドラマのようなイマジネーションで天井を見ながら演奏したところで、名作は生かされない。

作曲家の細かな細かな作業の積み重ねを活かして初めて音楽に力を生み、人の心を揺さぶる。演奏する立場に立つ者は、作曲家の目を見張る偉業を緻密に拾い出し、組み立て、命を生んでいく使命がある。

録音まであと数日。ぎりぎりまで作曲家の意図したものに近づけるよう、歩んでみたい。

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