自由な演奏と不安定な演奏。この二つは、紙一重で隣り合っている。
ちょっとしたことで、大きな勘違いということになってしまう。
この二つの違いにかかわる一番大きな要素は何か。
それは、“脈”。
生きるものすべてにある、この“心臓”は、音楽にもあり、不可欠なもの。
ただ、音楽での大きな違いは、生き物や、時の流れのように、<定期的に>、<規則正しく>打つわけではないということ。音楽では、この脈が上手に伸び縮みをしながら、”自然に“流れていかなければならない。
<イン テンポ>とは何だろう。一定の速度で弾く、ということではない。音楽での<時間>は
“絶対的”ではなく”相対的“に流れるから。
少し言葉が難しいかな。
相対的ということを、簡単に説明してみよう。たとえば、今自分に5分間あるとする。この5分、<遊んできていいよ>といわれても、あっという間に過ぎてしまう。でも、おばけがでそうな、すごい不気味な場所に<ここに5分間いなさい>といわれたら、きっと長いと感じるでしょう。同じ5分が長く感じたり、短く感じたりすること、これが”相対的”ということ。
音楽での”インテンポ“は、聴いている人に、脈が<自然にながれている様に>さえ感じさせればいいのである。
ちょっと面白い例を挙げてみよう。緊迫感のある部分があり、その後、落ち着いたメロディーが来るとする。あなたなら、時間をどう使う?
緊迫しているところは、少し前にすすんで、ほっとするところでは、幅を広めにゆったり弾く?
それとも、
緊迫しているところに、時間を多めにかけて、緊張が取れたところで、音楽を前に進める?
どっちが正しいだろうか。
<どちらも正しい>のです!
これこそが、”個性”ということ。同じ緊張感をどう表現するかは、個人の自由だから。
このように”伸び縮み”をしながら、実際は気持ちよく脈が進んでいくように聞かせるのである。しかし、気持ちよく進んでいく場合、横にメトロノームを置いてみたら、絶対といって良いほどずれていく。これは、さっき説明した”相対的”ということを考えれば当然のこと。一定に流れているかの<様に>感じさせているだけなのだから。この時間の<伸び縮み>をいかに必要に応じて使えるかが鍵となる。
伸び縮みをどう使うかは、音楽の緊張感が大きく作用する。どこがどの程度緊張しているのかを知るには、ハーモニーの動きを理解することが、不可欠になる。このことをブログで短く説明するのはかなり難しいので、残念ながら書かないが、感覚や本能で弾くだけではなく、ハーモニーや、ハーモニーの変化が生み出すリズムを知り、それをうまく生かしていくことは、避けられない。
難しい話は置いておいて、1つだけ覚えていてほしいことがある。
-借りたら返す-
ということ。ルバートということばの語源は、ラテン語で ”取る、盗む”ということらしい。
時間を前の音から”取る”。とって次の音を少し長くした分、また前に進む。つまり、時間を”返す”のである。
取ったり、返したり・・・つまり、これこそが<伸び縮み>を生みだす。
自由に弾こうと、時間を<取りっぱなしに>するから、<伸び縮み>ではなく<伸びっぱなし>になる。反対も同じ。そして、音楽が不安定になってしまうのである。取ったら返そう!