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リーズ国際コンクールを通して考えること①

リーズ国際コンクールからずいぶんな日程があいた。その間、ショパン誌にレポートを書くために、様々なことを考え、私にとってありがたい貴重な機会になった。
コンクールではまさに”全”演奏を聴かせていただき、国を問わず、総合的に演奏能力が高くなっている驚きと同時に、日本人にみられる傾向と問題点も顕著にあらわれたと感じる。そしてその問題の根は深いとも感じた。
それは 表現力、説得力、そして存在感。
“日本人”とひとことで言っても、当然十人十色で、それぞれが異なった演奏をする。にもかかわらず、「印象の弱さ」と「説得力や存在感の薄さ」がここまで共通して顕著になると、”日本人は人前で意見を言うことに慣れていないから・・”では済まされないと感じた。
日本人の誰もが、品の良い、質の高い演奏で、その熱心な姿勢には好感が持てる。でも、芸術としてそれを堪能しようとしたとき、何かに欠ける。
『発熱していない』
と言えばよいのか。
社会の風潮や、育つ環境というのは当然その人のあり方に少なからず影響する。日本という国は、”相手の意志を探りながら、協調を求める”という傾向は、今の時代もあると感じる。それが謙虚さから来ているかというと、正直なところ?だが(苦笑)、その辺に踏み込むとややこしくなるので、それはスルーということで。(*^_^*)
空気が読めない
などという表現が生まれるところが、いかにも日本らしい。
続く

権利と責任

誰もが自由に自分の意見を公に述べることができるようになったブログの出現は画期的なことだ。それが良い方向で用いられている限りは。
ところが前述したように、今年のリーズ国際コンクールについて、残念なブログを目にしてしまった。
音楽にたずさわる一人として、コンクールを楽しみ、自分なりの感想を記していくことは素晴らしいと思う。たとえば、コンクール審査という一流を選出する観点からは残念ながらどうしても次の予選に進めることはできない演奏であったとしても、もし音楽愛好家の誰かがその演奏を聴き、この人の演奏を自分はとても好きで上手だなと感じ、応援したいと思ってその人を応援する内容をブログに記すとしたら、それは本当に素敵なことだと思う。
ところが、自分が抱いた印象が結果につながらなかったがために、コンクールを”不思議なもの”と評したり、自分のお気に入りの演奏家をほかの参加者と比べ、次の予選に進むことができた演奏家を否定的に書くというようなことをするのならば、その発言には責任というものが伴うはずだ。少しでも否定的なことを書く限り、そこに関係するすべての人がわかる言語で、そして自分のフルネームの署名を伴って書いてもらいたい。日本語という壁に隠れず、コンクール参加者、12名の審査委員、そして同じホールで音楽をわかちあっている聴衆にも読むことができる言語で、自分の署名と共に堂々と発言してもらいたい。
それから、いったいどういう根拠で今回の審査を”やっぱり””相当汚れているらしい”と表現しているのかわからないが、ブログに公言する時点でそれは12名の審査委員の名誉にかかわる。そしてその発言は全力を奮って参加している参加者に対しても、必死で働いているボランティアメンバーにも、音楽を楽しんでいる聴衆にも、そして多大な歴史を持つコンクールに対しても非常に失礼なことだ。
ここで書くほどのことでもないと思うが、審査はまったくの公正をもって行われている。そのブログの内容に驚いているのは審査委員のほうだ。ここまでの1次、2次、セミファイナルへは、演奏で堂々と実力を示した人たちが、公正な審査の元、自分の力で先に進んでいることも言うまでもない。
『自由な発言』には、『責任』が伴う。

リーズ国際コンクール セミファイナリスト発表!

先ほどセミファイナリスト12名が発表になりました。
Ashley Fripp
Ji-Hwan Hong
Heejae Kim
Tomoki Kitamura
Alexander Panfilov
Drew Petersen
Vitaly Pisarenko
Szuyu Su
Jun Sun
Anna Tcybuleva
Yun Wei
Yunqing Zhou
私の予想した12名のうち10名がランクインしていました。この人たちは絶対!と思った7-8名以外は
好みなどの関係でどうなるかな?こっちかなあ、あっちかなあ、と思っていたので、発表された12名は、それはそれで全くをもって
納得!の結果です。
今年のリーズ国際コンクールについて、偶然、日本語で書かれたとても気がかりで、
事実とは異なる内容のブログを目にし、とても悲しい思いをしています。本来はそういうものを
相手にするつもりはないのですが、最初から今日まですべての演奏を聴いてきたものとして、
コンクールの名誉のためにも、全力を奮っているコンテスタントのためにも、
そして本当に大変な毎日を頑張って笑顔を絶やさず、本当に熱心に審査をしている
12名すべての審査委員のためにも、この件に関しては近いうちにブログを出します。
是非読んでいただきたいです。

リーズ国際コンクール 2次予選 (9/4)

30名による二次予選の演奏が終了したところ。今頃、審査委員による投票が行われている。
2次予選はSchubert, Chopin, Schumann, Mendelssohn, Liszt, Brahms, Mussorgsky, Rachmaninov, Scriabin, Stravinsky, Bartók, Debussy, Ravel, Janáček, Granados or Albenizの主な作品から一曲とほかの自由曲を組み合わせて50分から55分という指定。
今回はみなさんの演奏する曲目が多彩で、聴いたことない曲にも出会える!と審査委員もとても喜んでいた。
1次予選をとおして考えることについては、ショパン誌に記事を送ったところありがたいことに内容をOKがでたので、10月号に記載していただくことになった。コンテスタントに求められることを考察してみたので、お手に取っていただけたらとても嬉しい。2次以降ファイナルまでを通しての総括の記事は11月号に記載させていただくことになっている。
下記が演奏を披露した30名(演奏順):結果が出次第、このブログに載せたいと思う。セミファイナルへは12名が進む。1次の結果は、私が予想してみた30名のうち、24名が進んでいた。今回も12名を予想して、楽しみに今その結果を待っている。
1日目:
YOSHITAKE Masaru
GUARERRA Giuseppe
PANFILOV Alexander
BERGIN Jamie
TCYBULEVA Anna
HUH Jae-Weon
ZHOU Yunqing
KATO Daiki
LEE Taek-Gi
2日目:
TARASEVICH-NIKOLAEV Arseny
PARK Joo-Hyeon
SHIN Chang-Yong
HONG Ji-Hwang
SUN Jun
WEI Yun
PISARENKO Vitaly
MORISHIGE Yuka
PRINICIPE Costanza
3日目:
KITAMURA Tomoki
SU Szuyu
WON Jaeyeon
PETERSEN Drew
LEONE Rodolfo
YANG Yuanfan
4日目:
KIM Heejae
DORKEN Kiveli
CHO Jun-Hwi
FRIPP Ashley
LEBHARDT Daniel
LI Zhenni

リーズ国際コンクール 2015(8/30) 2次予選通過者

発表になりました!予定通り30名。アルファベット順で下記のとおりです。
Jamie Bergin
Jun Hwi Cho
Kiveli Dörken
Ashley Fripp
Giuseppe Guarerra
Ji-Hwan Hong
Jae-Weon Huh
Daiki Kato
Heejae Kim
Tomoki Kitamura
Daniel Lebhardt
Taek Gi Lee
Rodolfo Leone
Zhenni Li
Yuka Morishige
Alexander Panfilov
Joo Hyeon Park
Drew Petersen
Vitaly Pisarenko
Costanza Principe
Chang Yong Shin
Szuyu Su
Jun Sun
Arseny Tarasevich-Nikolaev
Anna Tcybuleva
Yun Wei
Jaeyeon Won
Yuanfan Yang
Masaru Yoshitake
Yunqing Zhou
私が絶対進むであろうと思った20名のうち19名は入っていました。残りの11名に関しては、ん?
というケースも若干名あるものの、おおむね、まあそれもありかもなあ、と納得できる感じ。
というのも、一次を聴いた印象では2次に30名選ぶのはちょっと無理がある感じでした。
20名程度が無難だったというのが正直な感想です。30名選ばなければいけないという
決まりだったので、おそらく各審査委員が同じようなことで最後の10名を選ぶのに
苦労したのではないかと思います。その結果、おそらく票が割れて意外な結果もある
だろうなと予想していました。
あさってからの2次予選は、各自50-55分の演奏。審査委員にとっても過酷な日々が
続きます。にもかかわらず、明日の空き日は、先生方こぞって練習をなされるようです・・・。尊敬。
各審査委員の先生方の、審査を離れた日常の顔も、追ってご紹介できたらなと思います。
みなさん、本当に素敵な方ばかりなんです!!
余談ですが、一次で
アジア36名
アジア以外23名
だったのが二次で
アジア18名
アジア以外12名。
見事に同じ比率のまま進んでいます!

リーズ国際コンクール 2015(8/30)

リーズ国際コンクール 1次予選
長い長い一次予選がたったいま終了。まさに今、審査委員たちが票を入れているころだ。
一次予選は79名書類通過者がいたが、実際演奏したのは59名。多くのキャンセルがいた模様。その内訳で興味深いのがアジア人の量。59名中36名がアジア人だった。その中でも韓国と中国系だけで28名ぐらいはいたと思う。
会場には毎日地元の音楽ファンが200名前後は駆けつけていたと思う。午後になると多い時では300人ぐらいいたのではないだろうか。ただ、その年齢層が非常に高く、若い学生などは一切見られないのが気になるところだ。
1次予選は25分から30分。J.S.BACHからWeberまでの主な作曲家から1曲と自由曲という組み合わせ。その選曲や与える印象、そして共通して見えた日本人の印象についてもショパン誌の記事にまとめたいと思う。
毎日毎日10-22時という長丁場。審査員12名はこの集中を保ち続け、本当に素晴らしいと思う。とはいっても各自疲れが見える時間帯というのがあるに違いない。下記が演奏を披露した59名(演奏順):結果が出次第ブログに載せたいと思う。2次に進むのは30名と決まっているようだ。私も30名を予想して、楽しみにその結果を待っている。
1日目:
GUANG Chen
CHEN Genny
YOSHITAKE Masaru
GUARERRA Giuseppe
YOON Joon
PANFILOV Alexander
SALIMDJANOVA Tamila
BERGIN Gamie
BULKINA Anna
PARK Hyo-Eun
TCYBULEVA Anna
KHONTENASHVILI Shalva
2日目:
SARATOVSKY Nikolai
NOGI Nariya
PROOT Stephanie
HUH Jae-Weon
ZHOU Yunqing
KATO Daiki
WANG Chun
KIM Myunghyun
LEE Taek-Gi
KIM Yoonji
TARASEVICH-NIKOLAEV Arseny
CHO Jun
PARK Joo-Hyeon
SHIN Chang-Yong
3日目:
HONG Ji-Hwang
CIOBANU Daniel
HAMOS Julia
RITIVOIU Mihai
GARRITSON Lindsay
SUN Jun
BERCU Alina 
WEI Yun
SHEN Meng Sheng
PISARENKO Vitaly
TANTIKARN Nattapol
WU Zhenyi
MORISHIGE Yuka
4日目:
PRINICIPE Costanza
WONG Chiyan
KITAMURA Tomoki
SU Szuyu
WON Jaeyeon
PETERSEN Drew
LEONE Rodolfo
LIN Peng
ONETO Bensaid Celia
HWANG Gunyoung
YANG Yuanfan
KIM Heejae
GOMITA Eriko
DORKEN Kiveli
5日目:
CHO Jun-Hwi
FRIPP Ashley
LEBHARDT Daniel
OH Yeontaek
NAKADA Mizuho
LI Zhenni

リーズ国際コンクール 2015 (8/25)

本日リーズに到着!昨日が参加者たちの到着日だったこともあり、大勢のピアニストがリーズ国際空港を通った模様。今日到着の私は空港の入国審査で、”入国目的は”ときかれ、
私:コンクールで仕事をする主人に付き添ってきました。
と答えたところ、
入国審査官:(急に満面の笑み)あーーあのコンクール!昨日たっくさんここを通ったんだよね。君のご主人もコンクール参加するの?
私:いえ、さすがに年齢行き過ぎてますんで・・・(/・ω・)/  
彼は審査委員です。
入国審査官:おーー審査委員!!ワオー (→やたら盛り上がる審査官でした)
といった感じで無事入国。
コンクール事務所から送っていただいた迎えの車の運転手さんは、40-50代の男性。
乗った途端
リーズは初めて?
と質問がきた。
Dが、40年ぶりです!と言ったところ、
運転手:14年(フォーティーン?) 
D:いえ、40(フォーティー)
運転手:(大ボリュームで) フォオティ–??!!!それはすごいすごいすごいー
運転手:40年前にリーズで仕事でもしてたの? (←すごい脱線ぶり)
D:いえ、僕もコンクールに参加していたのです。
運転手:へえ。それはすごいねえ。
ってな感じで大盛り上がり。
話が進むにつれ、運転手が自己紹介をはじめた。
僕はね、北イラクから来たんだ。
私:(◎-◎)
イラク人!あの大変な国の・・・。外国にいると、こういう日本ではあまり考えられない出会いが日常にある。
子供さんが9歳で、リーズで生まれたという。でも両親がイラク人なので、時々イラクに行くことも。
D:子供さんがこちらで生まれたなら、イラクに帰るのは難しいでしょう?
運転手:それが、子供はイラクに行くたびに満面の笑みで、リーズに帰るとなると泣くんですよ。イラクには35人も従妹(いとこ)がいて大家族なのに、リーズにいる従妹は一人だけ。
私:(絶句・・35人の従妹… 別世界だ。)
運転手:北イギリスのリーズは雨ばかり。イラクは晴ればかり。とっても素敵なんだ。
でも、リーズでは私はこうやって仕事もさせてもらえる。イラクでは・・・
(言葉に詰まる)
運転手:子供はイラク生活の難しさはまだわかってないんだ。僕は15年前にリーズに来て以来、毎年来年こそイラクに戻る、来年こそ・・といいつつ15年たったよ。でもねえ・・。
ほんのり浮かぶ笑みに、何とも言えない気持ちになった。
世の中にはいろんな人がいる。いろんな思いを抱えて、いろんな生活をしている人がいる。イギリスで出会ったイラク人に、あらためて考えさせられた。仕事やプライベートでいろいろと移動の多い私の生活だが、こんな素敵な出会いが待っている。たくさんの人と出会うことが可能な仕事をさせてもらって、私は本当に素敵な人生を歩ませてもらっているなとあらためて感じた。
さて、脱線したけれど、リーズ取材はいよいよ明日から。不慣れなことも多いので心配ですが、がんばります!

リーズ国際コンクール 2015

雑誌Chopinさんのご協力のもの、記念すべきリーズ国際コンクールの取材をさせていただくことになりました。
ショパンの10,11月号に2か月連続で掲載していただく予定です。せっかくの機会に何か興味深い原稿ができないかと
考え抜いた結果、選曲とオーラについてリポートするという一風変わった案を思いつきました。
今、多くの若者がコンクールにあけくれています。その良し悪しは別として、受けると決めたからには
意味のある、そしてチャンスのあるものにする必要があると思います。コンクールの結果だけがすべてではない。そんなことはだれもが頭では理解しているものの、実際に結果がまずければ心に大きく傷がつく可能性も大きいリスクのあるコンクール参加。経験のため・・そんな甘い言葉だけでのぞんでくるものではありません。
東欧など生活の厳しい国の人々は、人生をかけてコンクールに挑んできています。
そんな思いから、若者たちの今後のコンクール参加に少しでも役立つよう、リーズ国際コンクールという3年に一度の一大イベントを
通して、
“選曲について”
そして芸術家として必要とされる
“舞台から与えるオーラ”
について考えてみたいと思います。雑誌ショパン10,11月号を是非お手に取っていただければ幸いです。
それとは別に、時間に余裕があれば・・・(汗)コンクールリポートなどをブログに載せたいと思います。
お付き合いいただければ嬉しいです。
私のサイトFromBerlinへは
こちらから

本物とは・・

普段はフランスの銀行員。趣味はピアノ。お年は55歳ぐらいだろうか。そんな男性がもうかれこれ何年もプライベートレッスンを受けにベルリンに通ってきている。
ピアノを弾くことが好きでたまらない彼は、あまりに楽しすぎて時々はのめり込み過ぎてしまい、まわりがきこえないのか、レッスン中に私が何か話しかけてもしばらく弾き続けたりもする。
そんな時はもちろん、私がもれなくプチット切れる。笑
えへへ、えへへ、と頭をぽりぽりかき、ここ弾けなくってーと必死に鉛筆でいろんなことを楽譜に書き込み、勉強する、そんな人だ。
そんな彼が持ってくる曲はショパンのバラードだったり、ラヴェルの水の戯れだったり、ときにはモーツァルトのソナタ amollなど本格的な選曲だ。そして毎回必ず暗譜で持ってくる。
パリから年に数回日帰りでレッスンに来るが、レッスン前にも必ずベルリンでスタジオを借りて練習しているらしい。
数年前ふとした雑談の折に、まだ家にピアノがないと言っていた。(つい先日ようやく買ったらしい) なので練習場所は貸しスタジオ。 会社のお昼休みに数駅先のスタジオに毎日行くと聞いて、たまげた。お昼ご飯は?と聞いたら、食べるより音楽の方が面白いと。
ははぁ……これが音楽を愛するということか、と頭が下がる。
そんなある日、バッハに挑戦したいと持ってきた。
いやあ、バッハは本当に難しくて。えへへへ。
全然うまくいかなくて。えへへへ。といつもに増して
頼りなーい感じで、また謙虚な彼。
困った困ったと苦笑いしながら弾いてくれた。確かにまだ少し必死で、指も上手く回らず、いろいろと勉強が必要だ。丁寧にバッハのつくり方や片手でポリフォニーを弾ける方法などを示しながらレッスンしようと思い、ここ、まずは左手だけ弾いていただけますか?
と聞いてみた。左手だけなんて楽譜があっても弾けない若者が多い中で、アマチュアの方にそんなことを求めるのかと言われそうだが、熱心な生徒には真剣にこちらも限界を挑戦してみる。
すると、
暗譜で(!)するするっと左手を弾き続ける。音楽的にはまだちょっとガタガタではあるし、もちろん基本的なテクニックは本格的に勉強している人よりも大変そうで、指がもつれながら演奏している。でも、なによりも暗譜で左手だけを問題なく弾けること、頭に入っていることに感心し、思わず
ベルリン芸大の生徒ですら、左手だけの練習が不十分な人が多いのに、暗譜でお弾きになるとは、感心しました
と伝えたところこんな答えが返ってきた。
あ、それはハーモニーがどうなってるかわからないと覚えられないので、 左だけも一生懸命勉強するんですよ。
と言われ、ほほー、とまたまた驚いた。
そして、とどめ。
もうバッハは難しくて、僕の頭になかなか入らないんですよ。頭にある程度入ってなくてピアノに向かってもうまくいかないので、出勤中の電車の中で、毎日必死で楽譜をこう開いてね、指を動かしてこういろいろ試しながらにらめっこして頭に入れていってるんだけど、なかなか難しい。えへへ。
もう
脱帽・・・ですな。
ピアノから離れて勉強する時間がいかに大切か、頭である程度把握しておくことの必要性、それには時間がかかるから忍耐力をもって毎日少しずつ丁寧に勉強。
これらは口を酸っぱくして、普段から生徒に伝えてきているが、
彼はそれを普段ピアノ触れる時間がないからこそ自分で思いつき、情熱があるからこそ妥協せず、必死で自分への挑戦を喜びをもってしている。
銀行員だから頭が良くて暗譜出来たのではなく、そこにはまさに不断の努力があったわけだ。
いったい何がプロなのか、何が本物なのか。考えさせられる瞬間だった。
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現代病?

レッスンを通して様々な企画を試し若い音楽家と接する中で、今深刻に感じる問題がある。それは私が名づけるところの、
「ネット病」。
わからないことがあれば検索に文字を入れ、答えらしきものを目にする。そして、”あ、わかった”・・と理解したつもりになってしまう。”この曲知らないなあ”、ネットで聴いてみよう、
あ、こんな感じの曲なのか…。音楽も同じだ。
これでは、学んだのではなく、脳はぽかんと口を開けて物を受け入れているだけであり、それで”学んだ”と思い込んでしまっているのはとても危険だ。レッスンもそうだが、
受けることに意義があるのではなく、そこで受けた情報を丁寧に1つ1つ吟味することに意味があり、そこから初めて勉強が始まるのに。
若者の消極性が強く気になり、個人レッスンやVillage,その他さまざまな機会を通して、自発性を高めようとしてきたが、今やるべきことはそこではなかったと気が付いた。
情報を得て満足することを続けていくうちに、知らず知らずのうちに、自分で”考えるとは、どういうことなのか”、”考えるにはどうすれば良いのか”がわからなくなっていて、
もっと簡単に言えば、頭を使うためのエネルギーすら失っている。
将来が不安です、自信がない・・・そんな言葉をたくさん聞く。そんなこと言ったら、私だって将来どころか毎日が不安だらけだ。
でも、そう言ったところで信じてくれない。
不安だ不安だと繰り返して、コンクールを受け続けたって何も変わらない。変わらないどころか、自信を失っていくだろう。
自信はコンクールの賞がくれるものではない。
本番の数がくれる物でもない。

不安なら考える。考えて、考え抜いて、今自分にできることをする。どんなに些細なことでも、自分に何ができるか考え、動くことが第一歩だ。
自分にできることは思ったよりもあるはず。自分にできることを一つずつ積み重ねていくことで自信につながる。考える力を養い、今自分にできることを見つけ、
一歩ずつ小さな積み木を重ねる。不安はいつでも付きまとうものだけれど、少しでもそれに打ち勝つ自信を付けてくれるのは、その”積み重ね”だけだ…と私は思う。
今一番急がれることは、彼らのいつのまにか止まってしまった脳を再び働かせるエンジンをかけることだと感じた。脳というのは使わなければ退化していく。
賢いか賢くないかではない。刺激し続けなければ、考える方法がわからなくなってしまう。
次回のDevoyons’ Villageでは、これまでとは趣向を変え、そういったものに役立つ企画を考えたいと思っている。その必要性を感じてくれる若者がいれば嬉しいところだが・・・。
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