代役と言えば・・・
前回のブログで、Dのエッセーについて紹介した”代役”経験。
実は私も1度だけある。留学して間もなくの頃…。
留学先では自分のピアノなんて自宅ににもてる余裕はなく、私は毎朝早朝からベルリン芸大で練習していた。当時は学校内に“練習室専用”なる部屋はなく、大学内の様々なレッスン室で練習をするので、朝9時も過ぎると、先生方が次々とレッスンに訪れ、練習している部屋を追い出されてしまうので、練習がままならない。
そのため朝6時半に学校の守衛さんの前で並んだ。そうすれば開校同時の朝7時に鍵を受け取れ、9時までの2時間は集中して練習できる。
少しでも良いピアノで練習したいという留学生が同じように何人も来ていて、7時の開校を待つ間、片言のドイツ語で互いにいろいろ話し、仲良くなった経験は、今思えば本当に宝物だ。
話を戻すと、そんな早朝練習にも負けず、当時のDも、早朝から学校にいて練習やらレッスンをしていた。そしてある朝、いつものように練習しているとDがいきなり練習室に入ってきて、
「モーツァルトのピアノ協奏曲を1か月後にベルリンフィルハーモニーホールで演奏できるソリストを探してるらしい。君、引き受けたらどう?」
私: え。。。。。。。。(;’∀’)
当時の私は、日本から来たばかり。日本では、お恥ずかしいことに年一回の学内試験に向けて、1年間にほんの数曲だけを仕上げるようなスピードで勉強してきた。
一か月で舞台に出るなど・・・・経験なしどころか、仰天だった。
D : 近くの楽譜屋がもうすぐ開くから、すぐに行って、ピアノの楽譜と、オーケストラのスコアを買ってきなさい。赤い楽譜ね。それですぐ練習して。ちょうど9日後にクラスで弾き合い会をするので、そこで暗譜で演奏するように。9日で暗譜ができていれば、安心感が増えるでしょ?残りの20日で、さらに磨けばよい。
先生に逆らったり議論するなどもってのほかだった当時、とにかく頭が真っ白になったが、急いで楽譜を買いに行き、全く知らない曲の譜読みに入った。
まずは9日後のクラス会で暗譜で演奏。そのためにいったいどのように譜読みをし、どのように暗譜をし、しかもどのように音楽的に演奏するのか・・・。急いで楽譜を買ったものの、初めて
弾く前に<考える>作業に入った。
楽譜とにらめっこし、全体像を把握する。全体像を把握しながら、譜読みと同時に効率よく暗譜を進め、指使いなども音楽的に必要とされるベストな指使いを、無駄なく一刻も早く見つけなければならない。遠回りする時間がないのだ。
いつもまにか、頭の中でずいぶん音楽をイメージし、弾いている自分を想像して指使いをイメージし・・・という、頭の中で音楽づくりをする練習に必然と入っていた。
この時の強烈な焦りと、猛烈な集中と、そして頭から火が出るほど考え抜いた経験は、それから先の留学生活の原動力となった。
今思えば、本当にありがたいオファーだった。
ーーー
20年もたち、ある時そのころの話をDにしてみると、
あれ?君あの曲弾いたことあるんじゃなかったっけ?と言いおった。
一度弾いたことがある曲と思い込んでいたらしい・・・
( 一一) ま、いいんだけどさっ・・・( 一一)