前回書いた“目印となるポイント”とは何か。それは例えば調が変わるところ、或いはさっきと同じ形なのに良く見ると、一回目とは少しだけ変化している音など何かが起きているところ。つまりここで大まかなハーモニーや調性のアナリーゼが役立つわけだ。その細かな変化のうえで非常に大切になるのが左手だけ或いは内声の暗譜。これは必要不可欠だ。左手や内声、そういう一瞬脇役に見えるところが、実はハーモニーや調がかわるきっかけ(=キーワード!)になっていることが非常に多いからだ。
先ほどの4種類(目、頭、耳、指)の記憶のうちどれをどう使うかという話だが、まず楽譜上でこの辺でページが変わる、この辺に音が多い・・・などの視覚的な記憶は、ぼんやりとでいいけれど、かなり大切だ。今自分がいる位置が漠然と把握できるうえに、一部で何か起きてしまった時に今の自分の居場所が分かると対処しやすい。(目の記憶)
そして、前述のハーモニーが変わるところなど、和声の変化。これは良く誤解しているケースがある。もちろん、ここからC-durになる、ここは5度から6度になる・・・そういった大まかなアナリーゼをしていることは不可欠だ。(頭での記憶)でも、それだけで十分ではない。時々私の生徒さんから、
何が何度に行くとか、ちゃんとわかっているはずなのに通して弾くとわからなくなるんです・・・
という言葉を耳にする。でも、頭でC-durになるとか5度から6度になる、2回目は<ソ>ではなく<ラ>になる・・・なんて思っていても実際弾いているときに間に合わないし、そんなことばかり考えていたら分析を聴いているような演奏になってしまう。楽譜にはちゃんと生徒自身によるアナリーゼが書いてあるのに、実際暗譜になるとだめだというケースも多々見ている。私たちは演奏家を目指している。試験をしているのではない。演奏から“生きた音楽”を求めているわけだから、アナリーゼをそのまま記憶するのではなく、演奏するうえでキャラクターや色に役立てなければ何の意味もない。変化が起きる場所は、その変化を耳で覚える。変化するところでは、何が何度になる・・・ではなく、<キャラクター、表情、色などの変化を耳で覚える>のだ。(耳での記憶)
(続く)
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