難しいところが弾きづらい場合、どうして弾きづらいのか、練習に入る前にその原因を探すことが大切だ。様々な難しさがあると思うけれど、ピアノ演奏でよくあることの一つ、大きく素早いポジション移動のときのミスについて書いてみたい。これは主に2つの原因が挙げられると思う。
1) これから来る難しい個所が気になって、目の前の事が不安定になる。
2) 移動に無駄があり遅くなっている。
最初の点については、階段を降りるようなものだ。ふと、先に気が行ったために、目の前の段を踏み外しそうになり、ひやっとすることがある。今弾いている音をきちんと弾くだけでなく、きちんと出した音を耳でキャッチ(聴く)してから次の難しいところを弾くということを常に頭に置いておくだけで、良い意味で演奏に安定感が出る。
2)について詳しく考えてみたい。これは、“速い移動をしなければいけない”という思いから来る間違いで、意外と多い。たとえば左手で、低いバス1音と真ん中あたりの音域の和音を交互に弾かなければいけないとする。バスを弾いて素早く次の和音に移動しなければいけないから・・・と左右への鋭い動きで鍵盤上を右へ左へと反復横とびのように(笑)移動して演奏しようとするケースが良くみられる。
これは本当に一番早い動きなのだろうか。
プールで泳ぐときのターンをイメージしてみよう。壁にタッチしてターンする方法ももちろんあるが、速いのはクロールなどで見る、壁の手前でくるっとするターン(クイックターン)だ。
水泳で壁にタッチしてから向きを変えるのと同じように、左右への鋭い行き来は速いようで実は大きく時間のロスをする。それは方向転換をする時にその向きが180度反対になってしまうので、今向かった速度にブレーキをかけて反対方向に動くことになるからだ。左右にそれを続ければスタートしてはブレーキをかけるという繰り返しになるため大変な運動になる割に速い移動ができない。
少ないエネルギーで一番早く動けるのはどういう時だろうか。
それは“円”を描くこと。
肘を軸にして、腕を回してみよう。左右素早く腕を動かすよりも、肘を中心にして円を描くほうが少ないエネルギーで、楽に早く動かせるのがわかるのではないだろうか。ここで大切なのは、肘を軸にするということ。円を描くということは、軸がないと非常に難しい。
コンパスでも軸がある。アイススケートで同じところで早くぐるぐるまわる演技があるが、これも体の軸が命になると思う。同じことがピアノでも言え、上記の場合ではその軸が肘である。
この“円”の動き、もちろん目に見えないほど鍵盤のそばで小さく行わないといけない。大きな円を描いていては逆効果で、かえって時間ロスになってしまう。自然な動きとは、移動するバスと和音の中間あたりに肘が来るように置き、それを軸として鍵盤の“ほんの”少し上を曲線を描くようにバスを探しに行き、バスを弾くと同時に鍵盤に這うように戻る。這うように行って這うように戻るのではなく、ほんの少~しだけ上に山を描く様にバスを探しに行くというのがポイント。そしてバスを弾いたと同時に真ん中の和音に戻る。その動きを線で描くとすると、横に長~い楕円のような動きだ。もちろん例外もあるのだけれど、概ねの基本はこの動きが利用できるだろう。
ピアノに限らず、楽器を演奏する際、体ができる限り自然な状態に近いほうが良い。バイオリンでも、チェロでも、クラリネットでも・・良く考えてみると、体と楽器が一体になるように、両腕で円を描くように楽器を包み込んでいる。ピアノも同じ。演奏でこの円の原理という自然な動きは本当に良く使う。
ショパンは手が小さい人だった。彼は本当にうまくこの円の動きを使ったテクニックで
曲を書いている。大きな移動に限らず、円のテクニックはショパン演奏の基本だと思う。そう考えてテクニックを探してみると面白いかもしれない。
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