あいづち

前から気になっていたのだが、電話を受けるとき、ヨーロッパの人は、”もしもし”ではなく、いきなり自分の名前をフルネームで名乗る。たとえば、私に電話がかかってきたとすると、
―はい、もしもし村田です
のかわりに、いきなり
-むらたりかこ!
と言って出てくるのである。フルネームで来られると、思わず電話をかけたこちらが、ひるんでしまう。
私のだんな(以下D)も例外なく、電話を取ると即座に、自分の名前を名乗る。問題はそこから。
そのあと受話器を耳にあてたまま、かなり長い間
( ¨)¨)¨)¨)¨)¨) シーン 
という時間が続くのだ。好奇心旺盛な私は、電話中と見られるDのまわりを、
くるくるくるくるとまわりながら(←かなりうっとうしい)
”誰?誰?”と、かけてきた人が誰なのか気になって仕方ない。それにしても電話を受け取ったDのほうが、1分以上だまっているということは、どういうこと?相手は無言電話??
電話が終わってきいてみた。すると、Dは
-普通に相手の話を聞いてるだけだよ。
という。
私:でも相づちうたないの?(・o・)
私は、相手が相槌をうってくれないと、”聞いてる?”と心配になってしまう。よく考えると、私がDに話しているときも、いつも黙って聞いているので、
“ねえ、聞いてる?”と連発していることに気がついた。
その度に
D:ちゃんと聞いてるよぉ。(‘ε’)
という。どうも、あの“相づち”というものを言葉が切れる度に挟むのは、少なくとも電話においては、日本語での会話ならではの特徴らしい。
そこで私は、
<日本語の会話ではね、単語の切れ目に、“うん”とか“はい”って相槌をはさむんだよ>と説明した。理解してますという意味もこめてね、と。
D:ほぉ~(゜o゜)
日本語勉強中のDは、早速それを実践へ。ところが、相槌は意外と難しいらしい。私の文章が切れるたびに、
んっ!んっ!んーー!
と思いっきり力をこめていうので、今度は話しにくくて仕方ない。
私:あのね、
D:“ん!
私:今日学校でね 
D:”んー!
という具合なってしまう。あまりに力んでいるので、笑いがこみ上げて話せたもんじゃない。
Dは覚えたばかりのことを即実践するのが好きである。私が小さいころ、教科書で、
<日本語のわからない外国人でも、日本人に話しかけられた時、
-はい、はい、そうですね
と繰り返して適当なタイミングで言っていれば、内容がわかっていなくても会話が成り立った>
という笑い話を読んだことがある。この話をDにした。何でも実際にやってみたい性格のDは、先日、日本でTaxiに一人で乗る機会があったとき、早速試してみたらしい。
Taxi運転手さんは、外国人が乗ったことが嬉しかったのか、一生懸命日本語で話しかけてきたそうだ。これでわからないというと可愛そうな気がしたDは、
―はい、はい、そうですかぁー
―はい、はい、へぇ、 そうですかぁー
と、定期的に間があるごとに繰り返したところ、本当に会話が成立。だんだん
そうですかぁーというのが面倒くさくなって、途中から、
すかー、はい、はい、へぇー
すかー
と言ってみたらしいが、やっぱり成り立ったらしく、Taxiの運転手さんはDが何も理解していないことを知らないままだったとか。
Dも相当チャレンジャーである。