8日のソプラノ歌手との共演。私にとって初めてとなる歌との共演に向け、できるだけ多くのことを吸収したいと、これまでいろいろなことを試みて来た。今回に限らずだが、普段から、本番に向けて準備期間がマンネリ化しないためにも自分なりに目標を立てるようにしている。こうすると緊張しているときに、何かに集中できるので良いという点もあると思う。
今回追求したいことは、音楽の脈と色。脈は音楽にとっての心臓ともいえると思う。”脈”をいかに自然に音楽に浸透させるかは、ソロであっても非常に難しいと常々感じているが、共演となるとさらに難関であり、まさに不可欠な最重要事項のひとつだと思っている。脈をそろえようとか合わせようとするのではなく、<相手と一緒に呼吸できること>が理想だと思う。そうは言っても、二人の違う人間であり、しかも本番にどういう脈を彼女が生み出すかは、そのときにしか分からないので、スリルであり、楽しみでもある。
そして色。これも私が永遠の課題として取り組んでいることの一つ。あの黒い楽器には無数の色の可能性が潜んでいて、どれだけそれを引き出し、また混ぜ合わせることによって、新たな色を生み出せるかを追求することは、演奏家の使命だと思う。特にピアノの特徴であり魅力は、同時に多声部を鳴らせること。1人でオーケストラができる楽器とも言えるかもしれない。それだけ、同時に出せる色の種類が多いわけだから、それらを混ぜることによって生まれる色も無限に膨らむはずである。共演となる場合には、歌のかたの作り出す”絵” 全体の雰囲気が私が置いていく色ひとつで大きく変わることになるので、大変な責任を痛感している。
たとえば、真っ白の画用紙に書かれた”家“を想像してみてほしい。描かれた絵の背景を、山にするか海にするか、朝か、夜か、春なのか、冬なのか・・・。単純にそれだけでも、この画用紙の ”家”という名の作品がまったく違って見えるのは明らかだ。歌のかたが、本番にどんな”家“を描き出すかは、私にも未知で、そこに今の私にどんな色付けができるか、責任を痛感しつつ精一杯繊細に反応できればと願っている。
脈と色。音楽の”心臓”と”命”と言えるのではないだろうか。
演奏会は、12月8日、19時より。王子ホール(銀座)にて。