「音楽」カテゴリーアーカイブ

リーズ国際コンクールを通して考えること ⑤

・・・そして、それからの道のりは長かった。
ささっと学べることではなく、要するにゼロからの積み重ねが求められたからだ。
読むも、聴くも、片っ端からいろんな曲を見て譜読みして見るのも、今までおたまじゃくししか目に入っていなかった楽譜の中を目を皿のようにして見るのも・・・何から何まで必要なわけで、ものすごい時間とエネルギーを要した・・いや、今も要している。
音楽を学ぶ、ということの意味を初めて考えた時だった。
だから、私のような幼稚な生徒を育てないためにも、教えるという立場に立った今は、生徒に、ピアノを弾くことだけではなく、作曲家についてや曲についてなど自分で調べたり、自分で弾いている曲だけではなく、いろいろなもの、とくにほかの編成のもの(歌、室内楽、オーケストラ作品)などを聴くように、繰り返し繰り返し伝え続けることが必要だと思っている。指を動かす練習は、芸術のためにやっているのであって、芸術でいったい何を作り上げるのかを前もって知らずに、指を動かして、なんとなく歌って、リンゴもバナナもすべて同じにして”弾けた”と思っているのは大変な、そして深刻な間違いだからだ。
続く

リーズ国際コンクールを通して考えること ④

私は、以前日本の音大で勉強していたころ、DEVOYONのレッスンをはじめて(だったと思う)受ける機会があった。自分なりに一生懸命最後まで弾いたBeethovenだった。
ド緊張の中、30分もがんばって演奏した後にそのフランス人先生から出たひとこと目は
冷たく
「これがモーツァルトなら最高の演奏だね」
だった。
(* ̄□ ̄*;
まさに、”撃沈”させられた記憶がある。
ひとことで言えば、私の演奏を「ベートーヴェンではない」と言ったわけで、
私の演奏の根本を全否定されことは一発でわかった。
その時、実は学内の試験の結果、ご褒美でBeethovenを演奏させてもらえるという時期だった。まさに前回書いた、”ある程度評価された”と勝手に思い込んでいた時期だ。でも明らかに
間違っていた
のだ。さらに深刻だった問題は、そういわれたことで私の演奏はベートーヴェンではなく、スタイルが間違っていたという現実はわかっても、何がベートーヴェンで何がモーツァルトか、といわれると、実はわかっているようでわからない自分を見てしまったことだった。・・・ベートーヴェンは厳格で、モーツァルトはもっと軽い?・・実はそんな幼稚なことしか考えていなかったのだ。 
指ばっかり動かして、いっぱい練習した気分になって、ピアノの前でいろいろ表情を付けてみて音楽だと思い込み、コンクールで落ちても、あそこをもっとうまく弾けるようにしなければ・・などと思って練習していただけで、実は私は 
“何も知らないのだ” 
という現実を突き付けられ、思い知らされた瞬間で、私にとって、まさにはじめて突き落とされた経験だ。
20歳の時のことだ。
その日、文字通りどん底まで落ち込んで、レッスンスタジオから、それはそれは、ものすごい重い足取りでゆっくりと帰路についたことを鮮明に覚えている。
続く

リーズ国際コンクールを通して考えること ③

前回書いたように
芸術の国では、演奏家は創造主とは違う。創造主は作曲家だ。演奏家は、演奏をする。つまり芸術の国では、創造主の芸術を「表にあらわす」仲介者的立場となるわけだ。
表現する・・・つまり何かを「表にあらわす」とき、そこには責任が伴う。だからこそ、自分で納得のいくもの、そして説得力のあるものでない限り、大きな声では表せない。
芸術の国を演奏者として生きるには、自分で納得いくもの、説得力のあるものを身に付ける必要がある。

では、そのためには何が必要になるのか。
・・・そこには3つのトライアングルがかかわって来ると思う。
「知識」「欲望」「判断力」
そのどれが欠けていても、説得力には結びつかないであろう。
私がこれから書くことは私が知っている限りの経験の話なので、当然狭い世界ではあるが許してもらいたい。
・・・・・・・
素晴らしく演奏していて、お客さんも喜ぶ・・。でも、それをプロという目で見ると評価が付いてこないことがある。それは、「知識」の問題だ。
音楽的な演奏で、お客さんも喜ぶ。そして周りから”上手だ”、というある程度の評価をもらう。
ところが、その解釈が実は大きく脱線している・・ということが日本人の演奏でも、少なからずある。解釈が脱線しているというのは
どういうことかというと、それはベートーヴェンじゃないですよ、それはプロコフィエフではないですよ・・、という演奏だ。
でも良い評価を受けて来ていた本人は、全然何がまずいのかわからない。”好みの問題だ”などと、済ませてしまうことすらある。
つまり知識が足りないのだ。『ある程度生命感があり、なんとなく音楽的であれば、それで良いとしてしまう』。
身体を動かし、うなり、天井を見上げ・・・これで芸術だと。
知らないとは恐ろしいことだ。
違う例で書いてみよう。
 ”りんご” が何かを知らずに、リンゴだと思ってずっとバナナの絵を書きづつけ、りんごを見たことのない民族から、わーすごく上手に書いてるわねー。とちやほやされ続けてきたとする。そして鼻高々に、自称”りんご”を別の民族の前で書いたところ、あら~これバナナなのにねえ。と失笑をかってしまう。そこに”個性”も”自由”もない。間違いは間違いだ。
音楽でも、プロコフィエフだと思い込んで、ショパンみたいに弾いていたり・・というのはプロの仲介者である限り、同じぐらい恥ずかしいことになる。
続く

リーズ国際コンクールを通して考えること ②

周りが海に囲まれ、島国である独特な地理関係にある日本は、今も村意識が強く根付いている。騒ぎを起こさない。波風立てない。必要があれば、人の意見に合わせるといったことすらある。
それはそれで1つのあり方だと思う。良い悪いの話ではない。生き残りに必死な状況で育った場合、譲り合いよりも割り込んででも生き残る、といった人や国だってもちろんある。それはそれで、やはりひとつの生き方だろう。
芸術を学ぶとき、それは日本人、西洋人、育ち・・・うんぬんではない。芸術は芸術であり、「芸術という世界」だからだ。
日本なら日本での生き方があるのと同じように、芸術を学ぶとき、芸術に触れている時は、日本でもなく、外国でもなく、”芸術という国を生きる“ことを学んでいかなければいけない。
「芸術の国」では、演奏家は創造主とは違う。創造主は作曲家だ。演奏家は、演奏をする。つまり芸術の国では、創造主の芸術を表にあらわす仲介者的立場となるわけだ。
続く

リーズ国際コンクールを通して考えること①

リーズ国際コンクールからずいぶんな日程があいた。その間、ショパン誌にレポートを書くために、様々なことを考え、私にとってありがたい貴重な機会になった。
コンクールではまさに”全”演奏を聴かせていただき、国を問わず、総合的に演奏能力が高くなっている驚きと同時に、日本人にみられる傾向と問題点も顕著にあらわれたと感じる。そしてその問題の根は深いとも感じた。
それは 表現力、説得力、そして存在感。
“日本人”とひとことで言っても、当然十人十色で、それぞれが異なった演奏をする。にもかかわらず、「印象の弱さ」と「説得力や存在感の薄さ」がここまで共通して顕著になると、”日本人は人前で意見を言うことに慣れていないから・・”では済まされないと感じた。
日本人の誰もが、品の良い、質の高い演奏で、その熱心な姿勢には好感が持てる。でも、芸術としてそれを堪能しようとしたとき、何かに欠ける。
『発熱していない』
と言えばよいのか。
社会の風潮や、育つ環境というのは当然その人のあり方に少なからず影響する。日本という国は、”相手の意志を探りながら、協調を求める”という傾向は、今の時代もあると感じる。それが謙虚さから来ているかというと、正直なところ?だが(苦笑)、その辺に踏み込むとややこしくなるので、それはスルーということで。(*^_^*)
空気が読めない
などという表現が生まれるところが、いかにも日本らしい。
続く

権利と責任

誰もが自由に自分の意見を公に述べることができるようになったブログの出現は画期的なことだ。それが良い方向で用いられている限りは。
ところが前述したように、今年のリーズ国際コンクールについて、残念なブログを目にしてしまった。
音楽にたずさわる一人として、コンクールを楽しみ、自分なりの感想を記していくことは素晴らしいと思う。たとえば、コンクール審査という一流を選出する観点からは残念ながらどうしても次の予選に進めることはできない演奏であったとしても、もし音楽愛好家の誰かがその演奏を聴き、この人の演奏を自分はとても好きで上手だなと感じ、応援したいと思ってその人を応援する内容をブログに記すとしたら、それは本当に素敵なことだと思う。
ところが、自分が抱いた印象が結果につながらなかったがために、コンクールを”不思議なもの”と評したり、自分のお気に入りの演奏家をほかの参加者と比べ、次の予選に進むことができた演奏家を否定的に書くというようなことをするのならば、その発言には責任というものが伴うはずだ。少しでも否定的なことを書く限り、そこに関係するすべての人がわかる言語で、そして自分のフルネームの署名を伴って書いてもらいたい。日本語という壁に隠れず、コンクール参加者、12名の審査委員、そして同じホールで音楽をわかちあっている聴衆にも読むことができる言語で、自分の署名と共に堂々と発言してもらいたい。
それから、いったいどういう根拠で今回の審査を”やっぱり””相当汚れているらしい”と表現しているのかわからないが、ブログに公言する時点でそれは12名の審査委員の名誉にかかわる。そしてその発言は全力を奮って参加している参加者に対しても、必死で働いているボランティアメンバーにも、音楽を楽しんでいる聴衆にも、そして多大な歴史を持つコンクールに対しても非常に失礼なことだ。
ここで書くほどのことでもないと思うが、審査はまったくの公正をもって行われている。そのブログの内容に驚いているのは審査委員のほうだ。ここまでの1次、2次、セミファイナルへは、演奏で堂々と実力を示した人たちが、公正な審査の元、自分の力で先に進んでいることも言うまでもない。
『自由な発言』には、『責任』が伴う。

リーズ国際コンクール セミファイナリスト発表!

先ほどセミファイナリスト12名が発表になりました。
Ashley Fripp
Ji-Hwan Hong
Heejae Kim
Tomoki Kitamura
Alexander Panfilov
Drew Petersen
Vitaly Pisarenko
Szuyu Su
Jun Sun
Anna Tcybuleva
Yun Wei
Yunqing Zhou
私の予想した12名のうち10名がランクインしていました。この人たちは絶対!と思った7-8名以外は
好みなどの関係でどうなるかな?こっちかなあ、あっちかなあ、と思っていたので、発表された12名は、それはそれで全くをもって
納得!の結果です。
今年のリーズ国際コンクールについて、偶然、日本語で書かれたとても気がかりで、
事実とは異なる内容のブログを目にし、とても悲しい思いをしています。本来はそういうものを
相手にするつもりはないのですが、最初から今日まですべての演奏を聴いてきたものとして、
コンクールの名誉のためにも、全力を奮っているコンテスタントのためにも、
そして本当に大変な毎日を頑張って笑顔を絶やさず、本当に熱心に審査をしている
12名すべての審査委員のためにも、この件に関しては近いうちにブログを出します。
是非読んでいただきたいです。

リーズ国際コンクール 2次予選 (9/4)

30名による二次予選の演奏が終了したところ。今頃、審査委員による投票が行われている。
2次予選はSchubert, Chopin, Schumann, Mendelssohn, Liszt, Brahms, Mussorgsky, Rachmaninov, Scriabin, Stravinsky, Bartók, Debussy, Ravel, Janáček, Granados or Albenizの主な作品から一曲とほかの自由曲を組み合わせて50分から55分という指定。
今回はみなさんの演奏する曲目が多彩で、聴いたことない曲にも出会える!と審査委員もとても喜んでいた。
1次予選をとおして考えることについては、ショパン誌に記事を送ったところありがたいことに内容をOKがでたので、10月号に記載していただくことになった。コンテスタントに求められることを考察してみたので、お手に取っていただけたらとても嬉しい。2次以降ファイナルまでを通しての総括の記事は11月号に記載させていただくことになっている。
下記が演奏を披露した30名(演奏順):結果が出次第、このブログに載せたいと思う。セミファイナルへは12名が進む。1次の結果は、私が予想してみた30名のうち、24名が進んでいた。今回も12名を予想して、楽しみに今その結果を待っている。
1日目:
YOSHITAKE Masaru
GUARERRA Giuseppe
PANFILOV Alexander
BERGIN Jamie
TCYBULEVA Anna
HUH Jae-Weon
ZHOU Yunqing
KATO Daiki
LEE Taek-Gi
2日目:
TARASEVICH-NIKOLAEV Arseny
PARK Joo-Hyeon
SHIN Chang-Yong
HONG Ji-Hwang
SUN Jun
WEI Yun
PISARENKO Vitaly
MORISHIGE Yuka
PRINICIPE Costanza
3日目:
KITAMURA Tomoki
SU Szuyu
WON Jaeyeon
PETERSEN Drew
LEONE Rodolfo
YANG Yuanfan
4日目:
KIM Heejae
DORKEN Kiveli
CHO Jun-Hwi
FRIPP Ashley
LEBHARDT Daniel
LI Zhenni

リーズ国際コンクール 2015(8/30) 2次予選通過者

発表になりました!予定通り30名。アルファベット順で下記のとおりです。
Jamie Bergin
Jun Hwi Cho
Kiveli Dörken
Ashley Fripp
Giuseppe Guarerra
Ji-Hwan Hong
Jae-Weon Huh
Daiki Kato
Heejae Kim
Tomoki Kitamura
Daniel Lebhardt
Taek Gi Lee
Rodolfo Leone
Zhenni Li
Yuka Morishige
Alexander Panfilov
Joo Hyeon Park
Drew Petersen
Vitaly Pisarenko
Costanza Principe
Chang Yong Shin
Szuyu Su
Jun Sun
Arseny Tarasevich-Nikolaev
Anna Tcybuleva
Yun Wei
Jaeyeon Won
Yuanfan Yang
Masaru Yoshitake
Yunqing Zhou
私が絶対進むであろうと思った20名のうち19名は入っていました。残りの11名に関しては、ん?
というケースも若干名あるものの、おおむね、まあそれもありかもなあ、と納得できる感じ。
というのも、一次を聴いた印象では2次に30名選ぶのはちょっと無理がある感じでした。
20名程度が無難だったというのが正直な感想です。30名選ばなければいけないという
決まりだったので、おそらく各審査委員が同じようなことで最後の10名を選ぶのに
苦労したのではないかと思います。その結果、おそらく票が割れて意外な結果もある
だろうなと予想していました。
あさってからの2次予選は、各自50-55分の演奏。審査委員にとっても過酷な日々が
続きます。にもかかわらず、明日の空き日は、先生方こぞって練習をなされるようです・・・。尊敬。
各審査委員の先生方の、審査を離れた日常の顔も、追ってご紹介できたらなと思います。
みなさん、本当に素敵な方ばかりなんです!!
余談ですが、一次で
アジア36名
アジア以外23名
だったのが二次で
アジア18名
アジア以外12名。
見事に同じ比率のまま進んでいます!

リーズ国際コンクール 2015(8/30)

リーズ国際コンクール 1次予選
長い長い一次予選がたったいま終了。まさに今、審査委員たちが票を入れているころだ。
一次予選は79名書類通過者がいたが、実際演奏したのは59名。多くのキャンセルがいた模様。その内訳で興味深いのがアジア人の量。59名中36名がアジア人だった。その中でも韓国と中国系だけで28名ぐらいはいたと思う。
会場には毎日地元の音楽ファンが200名前後は駆けつけていたと思う。午後になると多い時では300人ぐらいいたのではないだろうか。ただ、その年齢層が非常に高く、若い学生などは一切見られないのが気になるところだ。
1次予選は25分から30分。J.S.BACHからWeberまでの主な作曲家から1曲と自由曲という組み合わせ。その選曲や与える印象、そして共通して見えた日本人の印象についてもショパン誌の記事にまとめたいと思う。
毎日毎日10-22時という長丁場。審査員12名はこの集中を保ち続け、本当に素晴らしいと思う。とはいっても各自疲れが見える時間帯というのがあるに違いない。下記が演奏を披露した59名(演奏順):結果が出次第ブログに載せたいと思う。2次に進むのは30名と決まっているようだ。私も30名を予想して、楽しみにその結果を待っている。
1日目:
GUANG Chen
CHEN Genny
YOSHITAKE Masaru
GUARERRA Giuseppe
YOON Joon
PANFILOV Alexander
SALIMDJANOVA Tamila
BERGIN Gamie
BULKINA Anna
PARK Hyo-Eun
TCYBULEVA Anna
KHONTENASHVILI Shalva
2日目:
SARATOVSKY Nikolai
NOGI Nariya
PROOT Stephanie
HUH Jae-Weon
ZHOU Yunqing
KATO Daiki
WANG Chun
KIM Myunghyun
LEE Taek-Gi
KIM Yoonji
TARASEVICH-NIKOLAEV Arseny
CHO Jun
PARK Joo-Hyeon
SHIN Chang-Yong
3日目:
HONG Ji-Hwang
CIOBANU Daniel
HAMOS Julia
RITIVOIU Mihai
GARRITSON Lindsay
SUN Jun
BERCU Alina 
WEI Yun
SHEN Meng Sheng
PISARENKO Vitaly
TANTIKARN Nattapol
WU Zhenyi
MORISHIGE Yuka
4日目:
PRINICIPE Costanza
WONG Chiyan
KITAMURA Tomoki
SU Szuyu
WON Jaeyeon
PETERSEN Drew
LEONE Rodolfo
LIN Peng
ONETO Bensaid Celia
HWANG Gunyoung
YANG Yuanfan
KIM Heejae
GOMITA Eriko
DORKEN Kiveli
5日目:
CHO Jun-Hwi
FRIPP Ashley
LEBHARDT Daniel
OH Yeontaek
NAKADA Mizuho
LI Zhenni