~意味のある練習を学ぶ~ “どこまで”を見る

Crescendo を見ると、途端にぶわーっと襲いかかってくる演奏を時々耳にする。これを、“こわい”クレッシェンドと私は呼んでいる。聴いていて本当に怖いからである。笑
Crescendo=大きくする。といういつの間にか覚えた観念から来ているのだろう。もちろん間違いではない。でも、音楽に接するときにいつも初心に戻って考えてほしいことがある。
作曲家は、なぜそう書いたのだろうか。
楽譜を見ているとわかると思うけれど、昔に戻るほど、作曲家によって書かれた速度表示や、強弱表示が少ない。スカルラッティなどには、何も書いていない。少しずつpやmf, ff、crescendo,diminuendoなどの強弱記号やaccelerando, ritなどの速度表示が書かれるようになり、それからdolce, espressivoなどの性格に関する表示が記載されるようになる。
“撫でるように”、“不安げな”、“遠くから”・・・など、踏み込んで具体的な表示がかかれるようになって来たのは本当に近代である。近代の作品には、“言葉”の表示が本当に多い。それに対して、ベートーヴェンやショパンなど、よく見ればまだとても限られた表示のみでしか記されていない。
ということは、私たち演奏する側に必要なことは、“どんな”ピアノ、“どんな”クレッシェンドを必要としているのか、ということを考えること。そうでないと、クレッシェンドのたびに大きくしたり、ピアノだから小さくしていただけでは、行ったり来たりのすごくつまらない演奏になってしまう。
たとえばクレッシェンド。
あるクレッシェンド表示があるとする。まず何が必要だろう。それは
1) どこから(=どういう音量から)
2) どこまで
そして、
3) どのように
ということを見ること。
わかりやすく言うと、クレッシェンドと一言で言っても、どういう大きさから始めて、どこまで上る必要があるのかということ。そして、どういう風に上るか。
場合によっては、ピアノからフォルテまでかもしれない。でも、メゾピアノからメゾフォルテかもしれない。もしくは、ピアノの中でのクレッシェンドかもしれない。
一番良い方法は、まず“どこまで”を先に決めること。前後関係や、曲の全体のバランスを考えて、こういう大きさまで上っていく必要がある、ということを見極める。
次に、“どういう”クレッシェンドが欲しいのかを考える。そのために、まず見る必要があるのは、何小節かけてクレッシェンドすればよいのかということ。それによって、急なものなのか、じりじりと来るのか、それともふわーっと広がるのか・・、など。つまり、“どのように”ということを見ることができる。
どこまで、どのように、と見ることによって必然的に、“どこから”、つまりどういう音量から始めるということが見えてくる。その上で、曲の性格をみながら、いろいろな種類のクレッシェンドを作り出すと面白いだろう。
多くの場合、クレッシェンドを見ると、まず大きくし始めてしまう。そうではなく、目的を定めよう。これから階段を駆け上がらなければならない時に、2階までのぼれば良いのか、10階までなのか、それがわかっていて初めてエネルギーの配分ができる。それと同じことだ。
Diminuendoも同じ。どこまで小さくするのか、をまず見極める。とりあえず音量を減らしてくるのではない。まったく同じことが、だんだん速く(accelerando)やだんだん遅く(ritardando)にも言える。どのテンポに向かってだんだん速く(遅く)するのか。
当たり前に聞こえる今回の話。振り返ってみると意外と、“どこまで”から探して始めていないことに気付く人もいるのではないかな。基本に帰ることをいつも忘れないでいたい。
私のサイトFromBerlinはこちらから
http://www.rikakomurata.com