伝えたいこと・・・(1)

好きではじめたはずの音楽。
音大に入りたい、プロになりたい、留学したい。入学試験、コンクール・・・
趣味からプロへの道には、試験、コンクールなどさまざまな乗り越えなければならないものがある。でも、乗り越える過程で、“好きで”はじめたはずの音楽が、苦しみになっていく。うまく弾かなきゃ・・・。これに合格しなきゃ・・・。
必死に練習し、必死にあがいているうち、目的がそれ、楽しみや音楽に接する喜びがどこかにいってしまっていないだろうか。表現 “したい”のではなく、“しなければ”になっていないだろうか・・・。
私がまさにそうだった。好きなのに、本番に行くと戦いになっている。震える自分との戦い。最近になって、目覚めた気がする。コンクールには遅い年齢になり、入試などの試験からも開放され、やっと自分が音楽と向き合えた今。戦いで通り過ぎた20代を複雑な思いで振り返っている。もっと違う見方ができていたら・・・。
両手一緒にひくのがやっとなうちのパパ。ときどき、思い出したようにピアノに座り、誰の曲でもないメロディーを、淡々と奏でることがある。自分の感じるままに、音を並べていく。指が動かなくても、上手に弾けなくても、好きで奏でている。この姿こそが本当の音楽家の源ではないのかな。
30代になり、指導する立場から見るようになって数年。
私が接している今の若い才能ある生徒たち。今の時点で方向を間違えてほしくない。コンクールは反対しない。私はコンクールからもたくさん学んだ。ただ、音楽に接した瞬間、ピアノの前に向かった瞬間から、それがコンクールであれ、演奏会であれ、あるいは練習であれ、本来あったはずの喜びを忘れないでほしい。プロを目指すなら、競争ではなく、戦いでもなく、本物の ”音楽“を目指して模索してほしい。
私が生徒によく言う言葉がある。
-ひとつでも音を出す以上、意味のない、心のない音は出さないで。
私もこれから、一生をかけて勉強し続けていこう。

クールシュベール夏期講習会 (MusicAlp Academie International de Musique Courchevel ) 2006年度

クールシュベール講習会・・・私の“ダンナ”さまが、親友のヴァイオリニストとふたりで芸術監督および事務をつとめている、今や世界的にも有名になった講習会。
実は私は、ベルリンに留学を始めた翌年、つまり97年から、今の講習会の前身にあたる小規模な講習会に毎年のように参加していた。当時、講習会を運営していたのは、あるフランス人作曲家&ピアニストであり、彼の尽力のおかげでベースができ、そして今の大きな講習会に発展したのであります。当時はピアノとバイオリンだけだったんじゃないかな・・。チェロもあったかな・・。今では、ピアノ、バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス、クラリネット、オーボエ、フルート、ハープ・・・近年ではホルンとギターも加わり、総勢600人を越える受講生が参加する、大規模なFestival&講習会になった。
事務所のない、すべて手作りの講習会。講習会を計画し、運営するメンバーは全員音楽家。全員といっても6名、“ダンナ”さまの友人ご夫婦二組と私たちなので、規模は大きくてもアットホームな感じがする。
私は、前述のとおり受講生として参加していたのだが、徐々に通訳を手伝い、当日の受付を手伝い、日本人向けのメールの返答を手伝い、申し込み手続きを手伝い・・・としているうちに、まんまと“ダンナ”さまの策にだまされ(笑)、知らず知らずとスタッフへの道を深く歩んでしまっていたのでした。気がついたらすでに抜けられない・・・∑( ̄□ ̄ ||
一方ダンナさまはというと、もちろん、作戦成功に、
にんまり♪ ( ̄― ̄)ニヤ 
うぅぅ・・。
同じように引きずり込まれたのが、うちの兄。今では定着したMusicAlpのロゴのデザインを考え出してくれた彼。コンピューターに詳しいことに加え、親切な性格がわざわい(?笑)し、あれこれ手伝っているうちに、いつの間にか公式サイトを任され、今では毎年作成しているのでした。
大変ながらも、温かいメンバーに囲まれている講習会。講習が始まる数ヶ月前からは、毎日夜中まで仕事をするという想像を絶する大変な準備に、私も“ダンナ”も<もうやめたい!!!>となることしばし。でも、毎年講習会の最終日に、彼が <受講生の顔を見ると、やめれないんだよなー>とつぶやいている。大変な準備の分、たくさんの受講生が楽しそうに参加してくれるのを見ると、うれしくなり、またやる気が沸いてくる。
実は今年、私はスタッフのみでなく、ピアノの講師としても参加することになった。ベルリンに来て10年。音楽に対し、“目からうろこ”というぐらい、音楽というものを新鮮に感じられたことがたくさんあり、本当に本当にたくさんのことを学ばせていただいた。
それを生かして、私も今の若い人に伝えたいことがたくさんある。
本当にたくさんある。
自分の見方さえ変われば、外国でなくてもどこでも学べるはず。できるだけ多くの人に、私が感じ、学んだことを、音楽を通して伝える機会が作れればと切望している。
一生の間に出会える人の数は、たったの一握り。講習会で出会う人も、今後、二度と会わないかもしれない人ばかり。人との出会いや、ある一言で人生が変わる場合もある。今年の夏、音楽を通じてひとつでもいいから彼らの心に残ることが伝えられたらこれほどうれしいことはないと思っている。
クールシュベール国際音楽アカデミーの公式サイトはこちら。
www.festivalmusicalp.com