また一つ開いた扉

ベルリンに留学して4年目のこと。半年に一回はあったクラスの弾き合いの最中の強烈な思い出がある。それまで文字通り毎日毎日毎日毎日探し求めていた「指で鍵盤を操る」という意味が「あ、これかも!」と感じられた瞬間だった。

指が動く、弾ける、回るではなく、指から音を紡ぎ出すという芸術としてのテクニック。

ずっと探し求めていた扉が開いたかもしれない!と思った瞬間、がーーーん💦その扉の向こうに待ち受けていたのは、もっともっと多くの扉だった。

自分の要求レベル、耳のレベル、教養のレベルが1つ上がると、これまで見えていなかった扉が突然たくさん見えるようになったのだ。

5月28日のスペシャル公演は、私にとって多くのことを感じさせてくれた。50歳を過ぎ、明らかに自分の音楽、人生への捉え方が変わってのコンサートでもあった。そして日本に移り住んで7年。本当に多くの体験と葛藤があった。とても嬉しい出会いもあれば、尊敬していた人からの思わぬ発言に大きく失望したり…

明らかに昔とは違う音楽の世界の中で、私は自分の人生をどう進めたいのか、自分への確認を含めての公演だったとも言える。

扉を開けると、次に多くの扉が待っているという果てしない学びの人生の中で、私は学生時代から本番に満足したことは一度もない。うまく弾けた、と言ったことも一度もない。でもそれは、次に自分が向かうべき道がまだ途切れていない証だと勝手にポジティブに捉え☺️、毎回新たな勉強を始めてきた。

今回の公演に向かう練習の過程での宝物は、たった2分の小さな曲から、ダンテのような大曲まで、1つずつの曲をまさに「芸術作品」として見る、という当たり前のような言葉の本当の意味が見えた気がしたことだ。そういうことなのかもしれない…というこの感覚は私にとって大きな転機となったことは間違いない。これもまた、そのおかげで開いた扉があり、その向こうには…😅という果てしない瞬間でもある。

全てがわかった!と感じたときは音楽をやめるべきだと昔から生徒に言ってきたように課題が見えることはありがたいことだと思う。

今年から来年にかけて、ありがたいことに色々とコンサートやマスタークラスなどの機会がありそうで、それを通してパスカルと共に、納得いく音楽人生をまた1日ずつ重ねていきたい。

会場はこれまでで一番多くのお客様に恵まれ、その温かさ、そして驚くほどの集中度に、これまた勝手に🐣、ではあるが、多くの方と芸術を共有できた瞬間だったと感じている。東京は忙しい街で、人に溢れている。そんな中、会場に足を運んでくださることは私たちの人生に本当に大きなエネルギーとまたがんばろう!と思える喜びを贈ってくださっている。心から御礼を申し上げたい。